こんにちは、初台まちクリニックです👩⚕️

GLP-1受容体作動薬(マンジャロなど)による治療を受けている患者様から、診察室で必ずと言っていいほどいただく質問があります。
「先生、目標体重まで痩せたら、お薬をやめてもいいですか?」
「やめたら、やっぱりリバウンドしますか?」
せっかく安くない費用をかけて手に入れた理想の体型。それを失うのは怖いですよね。
今日は、この不安に対して、最新の医学研究と「なぜ体はリバウンドしようとするのか」という体の仕組み(セットポイント理論)を交えて、お話しします。
☝️正直なデータ:薬をやめるとどうなる?(SURMOUNT-4試験)
まず、2023年末に発表された非常に重要な研究結果(SURMOUNT-4試験)をご紹介します。これは「マンジャロをやめたらどうなるか」を白黒はっきりさせるために行われました。
マンジャロを使って約9ヶ月で体重を大きく減らした人たちを、2つのグループに分けて1年間追跡したのです。
1. 【継続グループ】 そのままマンジャロを続けた人
2. 【中止グループ】 偽薬(プラセボ)に切り替えてやめた人
結果は衝撃的でした。
その結果、1年後(52週後)にどうなったかというと……。
• 【継続グループ】
さらに体重が減り、減量効果が維持されました。
• 【中止グループ】
残念ながら、減った体重が戻ってしまいました(約14%の体重再増加)。
この研究が私たちに突きつけた事実は、「肥満症は高血圧などと同じ『慢性疾患』であり、薬をやめれば体は元に戻ろうとする」ということでした。
☝️なぜ戻るの?犯人は「脳の勘違い」(セットポイント理論)
「やっぱり私の意志が弱いから…」
そう自分を責める必要は全くありません。リバウンドの原因は、あなたの心ではなく、脳の生存本能にあることが科学的に分かっています。
これを説明するのが「セットポイント理論」です。
脳は「太っていた頃」を覚えており、長年太っていた人の脳は、その太った状態を「正常(セットポイント)」だと設定しています。
薬やダイエットで急に痩せると、脳はこう勘違いします。
🧠:「緊急事態発生!脂肪が急に減った!これは飢餓だ!死んでしまう!」
「The Biggest Loser」研究の衝撃
アメリカのダイエット番組の出演者を6年間追跡した有名な研究(2016年)があります。
必死の運動と食事制限で激痩せした彼らの体は、6年後どうなっていたか?
• ほとんどの人がリバウンドしていました。
• さらに驚くべきことに、彼らの基礎代謝は極端に低いままでした(1日あたり約500kcalも代謝が落ちていた)。
つまり、脳が「エネルギーを使うな!脂肪を溜めろ!」と命令し続け、「人より食べなくても太る体」に変えてしまっていたのです。
マンジャロなどの薬は、この脳の「飢餓だ!」というパニック(食欲の暴走)をなだめてくれるからこそ痩せられるのです。しかし、薬をやめると脳は再びパニックを起こし、元の体重に戻そうと猛烈に抵抗を始めます。
☝️じゃあどうすればいい?リバウンドを防ぐ「3つの出口戦略」
「一生打ち続けなきゃいけないの?」と絶望する必要はありません。
「脳の抵抗」があることを前提に、当院では以下の3つの戦略で、リバウンドを最小限に抑える工夫が考えられています。
✅筋肉という「お守り」を作る
薬で体重が落ちる時、脂肪と一緒に筋肉も落ちてしまうと、代謝が下がってリバウンドしやすくなります。
お薬を使っている今こそ、タンパク質を摂り、スクワットなどの筋トレをしてください。維持した筋肉は、将来薬を減らした時に、あなたの代謝を支える最強の「お守り」になります。
✅いきなりゼロにしない(テーパリング)
目標体重になったからといって、急に薬を断つのは危険です。「食欲のダム」が決壊します。
• 15mg → 10mg → 5mg と数ヶ月かけて徐々に用量を減らす
• 投与間隔を10日、2週間と徐々に空ける
このように「ソフトランディング」させながら、ご自身の食事コントロールだけで体重を維持できるか、少しずつ試す期間が必要です。
✅「維持療法」への切り替え
完全にやめるのではなく、コストを抑えながら細く長く付き合う方法です。
• 2.5mgや5mgなどの低用量を続ける
• 医師と相談の上、間隔を調整してメンテナンス投与を行う
これにより、脳の「飢餓パニック」を抑えつつ、体重をキープすることを目指します。
👩⚕️最後に
リバウンドは「失敗」ではなく、体の「正常な防衛反応」です。
だからこそ、根性論ではなく、医学的な戦略が必要です。
「そろそろ目標体重だけど、やめるのが怖い」
「コストを抑えつつ、維持モードに入りたい」
そう思ったら、一人で悩まずご相談ください。
あなたの体質とライフスタイルに合わせた、最適な「着地」の方法を一緒に考えましょう。
【参考文献】
• SURMOUNT-4 Trial (JAMA 2024):薬の中止によるリバウンドの実証
• The Biggest Loser Study (Obesity 2016):急激な減量後の長期的な代謝低下
• Leibel RL et al. (NEJM 1995):体重変化とエネルギー消費量の関係
※本記事は最新の研究データをご紹介するものであり、効果には個人差があります。
※日本ではマンジャロは2型糖尿病の治療薬として承認されています。
※薬剤の調整や中止は必ず医師の指導の下で行ってください。