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| 糖尿病

GLP-1治療中に咳が長引く?研究で分かったことと受診の目安

☝️ はじめに

「糖尿病の薬を始めてから、空咳が続いている」
「風邪は治ったはずなのに、咳だけ残っている」
「薬の副作用かもしれない。やめたほうがいい?」

このような疑問はありませんか?

GLP-1受容体作動薬と、長引く咳との関連を調べた研究が報告されています。ただし、今回の研究だけで「薬が咳の原因」と断定することはできません。

大切なのは、薬との時間的な関係を確認しながら、ほかの原因も調べることです。研究の内容と、実生活での対応を整理します。

☝️ GLP-1受容体作動薬とは?

GLP-1は、食事に応じて分泌され、血糖の調節などに関わるホルモンです。GLP-1受容体作動薬は、その働きを利用した治療薬です。

日本では、セマグルチドを含むオゼンピックやリベルサスなどが、2型糖尿病の治療に使われています。血糖に応じたインスリン分泌を促すほか、食欲や胃の内容物が腸へ移動する速さにも影響します。

なお、マンジャロの成分であるチルゼパチドは、GIPとGLP-1の両方の受容体に作用する薬です。日本でのマンジャロの適応は2型糖尿病で、GLP-1受容体作動薬と完全に同じ薬の分類ではありません。

薬の選択は、血糖、体重、合併症、副作用、生活状況などを踏まえて判断します。「痩せる薬」という説明だけでは、治療の目的を十分に伝えられません。

☝️ 研究では何が分かっている?

米国の診療記録を調べた観察研究です

Gallagherらは、米国の70の医療機関・医療組織の診療記録を用いて、成人の2型糖尿病患者を調べました。

背景をそろえる前の集団は、GLP-1受容体作動薬の処方を受けた427,555人と、ほかの第2選択の糖尿病薬の処方を受けた1,614,495人でした。その後、年齢や持病などが近い患者さん同士を対応させて比較しています。

調べたのは、処方開始後5年以内に、新たな「慢性咳嗽」の診断が記録されるリスクです。患者さんを無作為に薬の群へ分ける試験ではありません。

比較する薬によって結果は異なりました

ほかの第2選択薬をまとめた比較では、GLP-1受容体作動薬の群で、慢性咳嗽と診断される相対的なハザードが約12%高いという結果でした。

調整ハザード比は1.12、95%信頼区間は1.08〜1.16です。

これは「12%の患者さんに咳が出る」「咳の発症割合が12ポイント増える」という意味ではありません。

一方、SGLT2阻害薬との比較では、全体解析の調整ハザード比は1.03、95%信頼区間は0.98〜1.09で、統計学的に明確な差はありませんでした。

つまり、「ほかの糖尿病薬より、必ず咳が出やすい」と一括りにはできません。

☝️ まだ分かっていないこと

薬が咳を起こしたとは断定できません

観察研究では、持病や診療の受け方などの違いが結果に影響する可能性があります。背景を調整しても、すべての違いを取り除けるわけではありません。

また、今回の評価は診療記録上の診断です。咳の強さ、実際の服薬状況、用量との関係などを、統一した方法で詳しく評価した試験ではありません。

咳が出る仕組みも確定していません

胃の内容物の移動が遅くなることに伴う胃酸逆流や、神経への作用などが仮説として挙げられています。しかし、今回の研究でその仕組みが証明されたわけではありません。

逆流性食道炎の診断が記録されていない人でも、胸やけを伴わない逆流などを完全には否定できません。「逆流の診断がないから、神経への直接作用が原因」と結論づけることはできません。

すべての患者さん・薬に同じ結果が当てはまるわけではありません

対象は米国の2型糖尿病患者です。糖尿病のない方が肥満症治療で使用する場合や、日本の患者さんに、そのまま同じリスクがあるとは判断できません。

マンジャロを含むすべての薬について、同じ程度の咳のリスクがあると示した研究でもありません。

☝️ 実生活ではどうすればいい?

1.咳と薬の開始・増量時期を記録しましょう

受診時には、次の情報が役立ちます。

✅ 咳が始まった時期
✅ 薬を始めた日・増量した日
✅ 空咳か、痰を伴う咳か
✅ 夜間、食後、横になるときに悪化するか
✅ 胸やけ、鼻水、喘鳴、発熱などを伴うか

「薬を始めた後に咳が出た」という情報は大切ですが、それだけで原因は決まりません。

2.ほかの原因も確認します

長引く咳には、感染後の咳、喘息・咳喘息、鼻の病気、胃酸の逆流など、さまざまな原因があります。一部の降圧薬など、ほかのお薬が関係する場合もあります。

お薬手帳に加え、市販薬やサプリメントの情報もお持ちください。

症状や診察結果に応じて必要な検査を検討し、専門医療機関への紹介につなげます。

3.薬は自己判断で中止しないでください

咳があるからといって、すぐに糖尿病の薬をやめる必要があるとは限りません。

主治医と相談し、治療の効果、咳の経過、ほかの原因を確認したうえで、継続・用量調整・変更などを検討します。

今回の研究から、咳のある方全員に胃酸を抑える薬や胃の動きを促す薬を追加すべき、とは言えません。原因に合った対応が必要です。

4.長引く咳は、早めに相談しましょう

一般に、8週間以上続く咳を「慢性咳嗽」と呼びます。ただし、受診を8週間待つ必要はありません。

3週間以上続く、眠れない、仕事や日常生活に支障がある場合は、医療機関へご相談ください。

息苦しさ、血痰、続く発熱などを伴う場合は、期間にかかわらず早めの受診が必要です。強い呼吸困難や強い胸痛がある場合は、救急受診してください。

☝️ まとめ

✅ GLP-1受容体作動薬と慢性咳嗽との関連が、観察研究で報告されています。
✅ 薬が原因と証明されたわけではなく、比較する薬によって結果は異なります。
✅ 咳には、喘息、感染症、胃酸逆流、ほかのお薬など、多くの原因があります。
✅ 薬を自己判断で中止せず、咳の経過と治療内容を主治医に伝えましょう。

初台まちのクリニックでは、長引く咳を、糖尿病の治療や持病と合わせて確認します。

「薬を始めてから咳が気になる」「咳で眠れない」という方は、お薬手帳をお持ちいただき、ご相談ください。必要に応じて検査や専門医療機関への紹介につなげます。

初台まちのクリニック
初台駅南口から徒歩1分

【参考文献・参考資料】

1.Gallagher TJ, Razura DE, Li A, Kim I, Vukkadala N, Barbu AM. Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists and Chronic Cough. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2026;152(2):163–171. オンライン公開:2025年11月26日。
DOI:10.1001/jamaoto.2025.4181
PMID:41296333
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41296333/

2.日本呼吸器学会.一般の皆様へ:「からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます。」
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html

3.PMDA.リベルサス錠 電子添文.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/620023_2499014F1021_1_07

4.PMDA.オゼンピック皮下注 電子添文.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/620023_2499418G4027_1_07

5.日本イーライリリー.マンジャロ皮下注 電子添文.
https://medical.lilly.com/jp/mounjaro/mounjaro-package-insert

※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。診断や治療は、症状、持病、使用中のお薬などにより異なります。薬の中止・増量・変更は自己判断で行わず、主治医にご相談ください。薬の承認情報・参考資料は2026年10月5日時点で確認しています。

院長 富田恭子

この記事の監修

富田 恭子初台まちのクリニック 院長/日本糖尿病学会 糖尿病専門医

経歴

  • 2008年 福岡大学医学部医学科 卒業
  • 鳥取大学医学部附属病院、山陰労災病院、上尾中央総合病院、総合健診センターヘルチェック 勤務

資格・所属学会

  • 日本糖尿病学会 糖尿病専門医
  • 日本内科学会 内科認定医
  • 日本医師会認定産業医/認知症サポート医
  • 抗加齢医学会 会員/日本フットケア・足病医学会 会員

糖尿病は初期に自覚症状が乏しく、放置すると合併症につながることがあります。糖尿病専門医として、将来の合併症を見据えながら「今できること」を一人ひとりと一緒に考え、継続して治療を進めます。

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