☝️ はじめに

「食事に気をつけているのに体重が減らない」
「一度痩せても、すぐに戻ってしまう」
「何度ダイエットしても長続きしない」
このようなお悩みは珍しくありません。
体重管理というと、
「食べすぎ」
「運動不足」
「本人の努力不足」
というイメージを持たれがちですが、現在の医学ではそれだけで説明できないことが分かっています。
体重は、
・食欲や満腹感を調整するホルモン
・遺伝的な体質
・睡眠
・ストレス
・生活環境
・薬剤
・腸内環境
・年齢
など、さまざまな要因の影響を受けています。
そして、肥満によって糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などの健康障害が生じている場合には、「肥満症」という治療の対象となる病気として考えます。
今回は、肥満と肥満症の違い、治療目標、現在行われている治療について分かりやすく解説します。
☝️ 「肥満」と「肥満症」は同じではありません
日本肥満学会では、BMI 25kg/m²以上を「肥満」と定義しています。
BMIは、
体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)
で計算します。
ただし、
BMIが25以上 = すべての人が病気
という意味ではありません。
肥満に加えて、
・2型糖尿病・耐糖能異常
・脂質異常症
・高血圧
・高尿酸血症・痛風
・冠動脈疾患
・脳梗塞
・脂肪肝
・月経異常・不妊
・睡眠時無呼吸症候群
・肥満に関連する運動器疾患
・肥満関連腎臓病
などの健康障害があり、医学的に減量が必要な状態を「肥満症」と呼びます。
つまり、肥満症治療の目的は、
「見た目を細くすること」
ではありません。
体重を減らすことで、肥満に関連する病気を予防・改善することが治療の目的です。
☝️ なぜ「頑張っても痩せにくい」ことがあるの?
体重は単純な意志の強さだけで決まるものではありません。
✅ 遺伝や体質
肥満には遺伝的な影響があります。
食欲、満腹感、エネルギー消費量などには個人差があり、同じような生活をしていても体重の増え方が違うことがあります。
もちろん、
「遺伝だから痩せられない」
という意味ではありません。
ただし、体重管理の難しさには個人差があることを理解することが大切です。
✅ 睡眠不足
睡眠時間が短い人では、肥満のリスクが高くなることが多くの研究で報告されています。
睡眠不足は、食欲に関係するホルモンや脳の報酬系に影響し、高カロリーな食品を選びやすくなる可能性があります。
そのため、肥満症治療では食事や運動だけでなく、睡眠についても確認します。
✅ ストレス
強いストレスが続くと、
・食事量が増える
・間食が増える
・睡眠が乱れる
・活動量が低下する
など、さまざまな経路で体重増加につながることがあります。
✅ 腸内細菌
腸内細菌と肥満との関係も研究されています。
肥満のある人とない人で腸内細菌叢の構成が異なるという報告はありますが、
「この菌がデブ菌」
「この菌が痩せ菌」
と単純に分けられるほど分かっているわけではありません。
また、特定の腸活やプロバイオティクスで肥満を治療できるという根拠も、現時点では十分ではありません。
☝️ 肥満症を放置すると、どんな病気につながる?
肥満はさまざまな病気と関連します。
代表的なのは、
・2型糖尿病
・高血圧
・脂質異常症
・脂肪肝
・睡眠時無呼吸症候群
・高尿酸血症、痛風
・変形性膝関節症
・心筋梗塞、脳梗塞
などです。
さらに、一部のがんの発症リスクとも関連しています。
そのため肥満症では、
「体重を何kgにするか」
よりも、
「体重を減らすことで血糖・血圧・脂質・睡眠・関節症状などがどう改善するか」
を重視します。
☝️ 目標は「標準体重」まで一気に痩せることではありません
「BMI 22まで落とさなければ意味がない」
と思っている方もいますが、その必要はありません。
日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインでは、一般的な肥満症では、
3〜6か月で現在の体重から3%減量
を一つの目標としています。
例えば、
80kgの方 → 約2.4kg減
100kgの方 → 約3kg減
です。
「たったそれだけ?」
と思うかもしれません。
しかし、3%程度の減量でも、血糖、血圧、脂質、肝機能、尿酸などが改善することがあります。
BMI 35以上の高度肥満症では、合併している病気に応じて5〜10%以上の減量を目指すことがあります。
大切なのは、
「一気に大幅減量する」
ことではなく、
健康障害を改善できる現実的な目標を設定する
ことです。
☝️ 肥満症治療の基本は「食事・運動・行動療法」
肥満症治療の基本は生活習慣の見直しです。
ただし、
「もっと食べる量を減らしてください」
「もっと運動してください」
だけでは、なかなか続きません。
一人ひとりの生活に合わせて、具体的に変更できる部分を探していきます。
✅ 食事
極端な糖質制限や断食などを無理に続けるのではなく、
・食事量
・間食
・甘い飲み物
・外食
・アルコール
・食べる時間
・たんぱく質や食物繊維
などを確認します。
「全部変える」のではなく、長く続けられる変更を積み重ねることが重要です。
✅ 運動
ウォーキングなどの有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングも重要です。
体重を減らす際には脂肪だけでなく筋肉も減少することがあるため、できる範囲で筋肉を維持することを意識します。
膝や腰に痛みがある方では、運動方法を調整する必要があります。
✅ 行動療法
体重、食事、活動量などを記録すると、
「どんな時に食べすぎるのか」
「休日に体重が増える」
「睡眠不足の日に間食が多い」
など、自分のパターンに気づくことがあります。
こうした行動を少しずつ変えていくことも肥満症治療の大切な一部です。
☝️ 薬を使った肥満症治療もあります
生活習慣を改善しても十分な効果が得られない肥満症では、薬物療法を検討することがあります。
近年、肥満症治療薬は大きく進歩しています。
日本では、肥満症に対して、
・セマグルチド
・チルゼパチド
などが使用できるようになっています。
これらの薬は食欲や満腹感に関係する消化管ホルモンの働きを利用し、食事量を減らしやすくすることで体重減少を助けます。
臨床試験では、生活習慣介入と組み合わせることで大きな体重減少が得られることが示されています。
ただし、
「痩せたい人なら誰でも使える薬」
ではありません。
☝️ 肥満症治療薬には適応条件があります
日本の保険診療で肥満症治療薬を使用する場合には、厳格な条件があります。
例えば、セマグルチドやチルゼパチドでは、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症で、
・BMI 27以上で、肥満に関連する健康障害を2つ以上有する
または
・BMI 35以上
などの条件があります。
さらに高血圧、脂質異常症、2型糖尿病・耐糖能異常などの合併状況や、施設要件なども確認する必要があります。
したがって、
「BMIが25を超えたから肥満症治療薬を使う」
というものではありません。
まず肥満症に該当するかどうかを医学的に評価することが大切です。
☝️ 薬を使えば生活習慣の改善は必要ない?
薬を使っても、食事や運動が不要になるわけではありません。
薬物療法は、
「生活習慣を頑張らなくてもいい治療」
ではなく、
生活習慣改善を続けやすくするための治療の一つ
と考えるのがよいでしょう。
また、薬を中止すると体重が再び増えることもあります。
そのため治療中から、
・食事
・運動
・睡眠
・体重管理
を無理なく続けられる形に整えていくことが重要です。
☝️ 薬の副作用にも注意が必要です
肥満症治療薬では、
・吐き気
・嘔吐
・下痢
・便秘
・食欲低下
などの消化器症状がみられることがあります。
また、患者さんの状態によっては使用できない場合や、慎重な判断が必要な場合があります。
自己判断で入手した薬を使用するのではなく、肥満症治療に詳しい医師のもとで適切に治療を行うことが重要です。
☝️ 高度肥満症では手術も選択肢になります
BMIが非常に高く、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などの健康障害が重い場合には、減量・代謝改善手術が治療の選択肢になることがあります。
代表的な方法として、胃の大部分を切除して細長くする「スリーブ状胃切除術」などがあります。
外科治療は、
「最後の手段」
というより、適切な患者さんでは大きな減量と健康障害改善が期待できる医学的治療の一つです。
もちろん、手術には適応基準やリスクがあり、専門施設で十分に検討する必要があります。
☝️ 肥満症治療で最も大切なこと
肥満症治療のゴールは、
「細くなること」
ではありません。
・血糖値を改善する
・血圧を下げる
・脂肪肝を改善する
・睡眠時無呼吸を改善する
・膝や腰への負担を減らす
・心血管疾患のリスクを下げる
など、
将来の健康を守ること
が本当の目的です。
体重計の数字だけで治療の成否を判断する必要はありません。
☝️ まとめ
肥満症について大切なポイントをまとめます。
✅ BMI 25以上は「肥満」ですが、それだけで肥満症とは限りません
✅ 肥満による健康障害があり、医学的な減量が必要な状態が「肥満症」です
✅ 肥満は意志の弱さだけで起こるものではありません
✅ 一般的な肥満症では、まず3〜6か月で3%程度の減量を目標にします
✅ 食事・運動・行動療法が治療の基本です
✅ 必要な方では肥満症治療薬も選択肢になります
✅ 薬には適応条件があり、誰でも使用できるわけではありません
✅ 高度肥満症では外科治療が適する場合もあります
「何度ダイエットしてもリバウンドする」
「糖尿病や高血圧もあり、体重を減らしたい」
「自分は肥満症に当てはまる?」
「肥満症治療薬について知りたい」
という方は、一度ご相談ください。
まずは体重だけでなく、血圧、血糖、脂質、肝機能、睡眠なども確認し、一人ひとりに合った治療方法を一緒に考えていきます。
初台まちのクリニック
初台駅南口から徒歩1分
【参考文献・参考資料】
・日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」
・日本肥満学会「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」
・PMDA「セマグルチド 最適使用推進ガイドライン(肥満症)」
・PMDA「チルゼパチド 最適使用推進ガイドライン(肥満症)」
・Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.
・Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2022;387:205-216.
※肥満症治療の適応や治療方法は、BMIだけでなく合併症、既往歴、現在の治療内容などによって異なります。