☝️ はじめに

「健診でコレステロールが高いと言われたけれど、薬は必要?」
「糖尿病があると、コレステロールの目標も変わる?」
「新しい注射薬は、飲み薬よりよいのでしょうか?」
脂質異常症の治療では、検査結果の数値だけでなく、糖尿病・血圧・喫煙・家族歴・心血管疾患の既往などを合わせて考えることが大切です。
同じLDLコレステロール値でも、患者さんによって目標値や適した治療は異なります。今回は、日本のガイドラインと臨床試験をもとに、治療の考え方を整理します。
☝️ 脂質異常症とは?
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪に異常がある状態です。主な診断基準は次のとおりです。[1]
| 検査項目 | 脂質異常症の診断基準 |
|---|---|
| LDLコレステロール | 140mg/dL以上 |
| HDLコレステロール | 40mg/dL未満 |
| 中性脂肪:空腹時採血 | 150mg/dL以上 |
| 中性脂肪:随時採血 | 175mg/dL以上 |
| Non-HDLコレステロール | 170mg/dL以上 |
LDLコレステロール120〜139mg/dL、Non-HDLコレステロール150〜169mg/dLは「境界域」とされ、ほかの危険因子を含めた評価が必要です。
中性脂肪は食事の影響を受けるため、採血条件も確認します。ガイドラインでは、10時間以上の絶食を「空腹時」としています。ただし、検査前の飲食や薬の扱いは、医療機関の指示に従ってください。
Non-HDLコレステロールとは?
Non-HDLコレステロールは、「総コレステロール−HDLコレステロール」で計算します。
LDLに加え、動脈硬化に関わるほかの粒子に含まれるコレステロールをまとめて評価する指標です。特に中性脂肪が高い場合などに参考になります。
「すべての脂質を測る検査」ではなく、LDLより常に優れているという意味でもありません。
症状がなくても確認が必要です
脂質異常症は、自覚症状が乏しいことが多い病気です。
特に高いLDLコレステロールが長く続くと、動脈硬化性疾患のリスクが高まります。ただし、検査値が高いからといって、直ちに心筋梗塞になるわけではありません。将来のリスクを評価し、必要な対策を続けることが重要です。
☝️ 私のLDLコレステロールの目標はいくつ?
「脂質異常症と判断する基準」と「治療で目指す値」は別です。
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、主なLDLコレステロールの管理目標を次のように示しています。[1]
| 状態・リスク区分 | LDLコレステロールの管理目標 |
|---|---|
| 一次予防:低リスク | 160mg/dL未満 |
| 一次予防:中リスク | 140mg/dL未満 |
| 一次予防:高リスク | 120mg/dL未満 |
| 糖尿病があり、末梢動脈疾患・細小血管症・喫煙のいずれかがある場合 | 100mg/dL未満を考慮 |
| 二次予防:冠動脈疾患や、対象となる動脈硬化性の脳梗塞の既往がある場合 | 100mg/dL未満 |
| 二次予防のうち、急性冠症候群・家族性高コレステロール血症・糖尿病など、特にリスクが高い場合 | 70mg/dL未満を考慮 |
一次予防とは、対象となる心血管疾患をまだ発症していない方の予防です。二次予防とは、すでに発症した方の再発を防ぐ治療です。
糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患は、一次予防でも高リスクとして扱います。糖尿病の細小血管症には、網膜症・腎症・神経障害が含まれます。
高血圧や喫煙があるだけで、機械的に「中リスク」と決まるわけではありません。年齢や複数の検査値などを合わせて評価します。
また、家族性高コレステロール血症では別途の治療方針が必要です。高齢の方では、体調・併存疾患・生活機能なども踏まえて個別に判断します。
表の数値は、自己判断で治療を始めたり中止したりするための基準ではありません。診察で、ご自身の目標を確認しましょう。
☝️ 薬による治療には、どのような選択肢がある?
生活習慣の改善は、薬を使用する場合も治療の土台です。
そのうえで、LDLコレステロールが目標に届かない場合や、心血管疾患のリスクが高い場合には、薬物療法を検討します。
① スタチン
肝臓でのコレステロール合成を抑える飲み薬です。LDLコレステロールを下げる治療の基本となり、心血管疾患の予防について多くの研究があります。
薬の種類と量は、必要な低下幅、併用薬、副作用の有無などで調整します。
② エゼチミブ
小腸からのコレステロール吸収を抑える飲み薬です。
スタチンだけでは目標に届かない場合の追加などに用います。スタチンの使用が難しい場合にも、状況に応じて検討します。
③ PCSK9抗体薬
エボロクマブなどの注射薬です。
肝臓が血液中のLDLを取り込む働きを助け、LDLコレステロールを下げます。「コレステロールを直接、体の外へ排出する薬」ではありません。
心血管疾患のリスクが高く、スタチンで効果不十分、またはスタチンによる治療が適さない場合など、適応条件に沿って検討します。
④ インクリシラン
PCSK9の産生を抑える仕組みの注射薬で、日本でも承認されています。[4]
初回、3か月後、その後は6か月ごとに投与します。対象は、心血管イベントのリスクが高く、スタチンで効果不十分、またはスタチンによる治療が適さない高コレステロール血症・家族性高コレステロール血症の患者さんです。
投与間隔の長さだけで選ぶのではなく、適応条件、効果、副作用、通院状況などを合わせて判断します。
⑤ ベムペド酸
肝臓でのコレステロール合成に関わる酵素を阻害する飲み薬です。日本では2025年に承認されました。[5]
スタチンで効果不十分、またはスタチンによる治療が適さない場合に検討します。
尿酸値の上昇や痛風に注意が必要です。また、スタチンとの併用では相互作用も確認します。「新しい薬だから、副作用を気にせず使える」というわけではありません。
中性脂肪が高い場合には、原因や程度に応じて別の薬を検討することもあります。LDLを下げる薬と、中性脂肪を下げる薬は、役割が同じではありません。
☝️ 研究では何が分かっている?
FOURIER試験:エボロクマブの追加で心血管イベントが減少
2017年に報告されたFOURIER試験は、動脈硬化性心血管疾患があり、スタチン治療中でもLDLコレステロールが70mg/dL以上だった27,564人を対象とした、無作為化比較試験です。[2]
無作為化比較試験とは、患者さんをランダムに治療群と比較群へ分け、治療の効果を比較する研究です。
追跡期間の中央値は2.2年でした。
エボロクマブを追加した群では、48週時点のLDLコレステロールが、プラセボ群との比較で約59%低下しました。
主要評価項目は、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症による入院・冠動脈の血流を回復させる治療をまとめたもので、発生率は次のとおりでした。
- エボロクマブ群:9.8%
- プラセボ群:11.3%
発生率の差は1.5ポイント、ハザード比は0.85でした。「相対的に約15%低い」という結果であり、「100人中15人の発症を防いだ」という意味ではありません。
ODYSSEY OUTCOMES試験でも再発予防の効果を確認
2018年のODYSSEY OUTCOMES試験は、急性冠症候群を発症してから1〜12か月の18,924人を対象とした無作為化比較試験です。[3]
十分なスタチン治療にアリロクマブを追加する群と、プラセボを追加する群を比較しました。追跡期間の中央値は2.8年でした。
冠動脈疾患による死亡・心筋梗塞・虚血性脳卒中・不安定狭心症による入院をまとめた主要評価項目の発生率は、9.5%対11.1%、ハザード比は0.85でした。
この試験も、すでに心血管疾患を発症した方を対象としています。海外試験の結果と、日本で現在選べる薬剤・適応は分けて考える必要があります。
☝️ まだ分かっていないこと・一般化できないこと
これらの試験は、特定の患者さんに薬を追加する効果を検証した研究です。
健診で軽度の脂質異常を指摘された方全員に、同じ注射薬が必要という結果ではありません。治療による利益の大きさは、もともとの発症リスクや治療期間によっても変わります。
また、「LDLを下げる効果」と「心筋梗塞や脳卒中を減らす効果」は、研究で確認する項目が異なります。ある薬の結果を、作用が似た別の薬へそのまま当てはめることはできません。
薬の新しさやLDL低下率だけで順位をつけず、患者さんに適した治療を選ぶことが重要です。
☝️ 実生活ではどうすればいい?
✅ 健診結果を持参し、自分の目標を確認する
LDL・HDL・中性脂肪の値に加え、採血前に食事をしたかも伝えてください。
糖尿病、腎臓病、心筋梗塞や脳梗塞の既往、喫煙、家族の病歴も、治療方針を決める手がかりになります。
LDLが非常に高い場合や、若い年齢で心筋梗塞を起こしたご家族がいる場合には、家族性高コレステロール血症も確認します。
✅ 油は「追加」より「置き換え」
肉の脂身、バター、生クリームなどを取りすぎている場合は、量や頻度を見直しましょう。
魚、大豆製品、適量の植物油などへの置き換えを考えます。オリーブ油などもエネルギーが高いため、健康によさそうだからと追加し続けるのは避けましょう。[6]
✅ 食物繊維を増やし、中性脂肪が高ければ飲み物も見直す
野菜、海藻、きのこ、豆類、適量の未精製穀類を取り入れます。
中性脂肪が高い方は、砂糖入り飲料、菓子、飲酒量、食事全体の量を見直しましょう。糖尿病のある方は、血糖管理も合わせて進めます。[6]
✅ 無理のない身体活動と禁煙を続ける
まずは歩く時間を少し増やすなど、継続できる方法から始めましょう。持病や体調によって適した運動量は異なります。
禁煙も、心血管疾患の予防に重要です。
✅ 薬は自己判断で中止しない
数値がよくなった理由が、薬の効果である場合もあります。
筋肉痛などの気になる症状があれば、我慢して続けるのではなく、処方した医師へ相談してください。薬の変更、量の調整、併用などを検討します。
妊娠を希望している方、妊娠・授乳中の方も、薬の選択に関わるため必ず伝えてください。
☝️ まとめ
脂質異常症の治療では、健診の判定だけでなく、「自分の心血管疾患リスク」と「自分の治療目標」を確認することが大切です。
- LDLの診断基準と治療目標は別です。
- 中性脂肪は、空腹時と随時採血で基準が異なります。
- 食事・身体活動・禁煙は、薬を使う場合も治療の土台です。
- 薬は新しさだけで選ばず、適応・効果・副作用・続けやすさを考えます。
初台まちのクリニックでは、糖尿病・高血圧なども含め、患者さんごとの状態に合わせて脂質異常症の治療を検討します。
健診結果をお持ちいただき、ご自身の目標と、今日から取り組める対策をご相談ください。
初台まちのクリニック
初台駅南口から徒歩1分
【参考文献・参考資料】
- 日本動脈硬化学会編. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 日本動脈硬化学会; 2022.
https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/ - Sabatine MS, Giugliano RP, Keech AC, et al. Evolocumab and Clinical Outcomes in Patients with Cardiovascular Disease. N Engl J Med. 2017;376(18):1713–1722.
DOI: 10.1056/NEJMoa1615664
PMID: 28304224
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28304224/ - Schwartz GG, Steg PG, Szarek M, et al. Alirocumab and Cardiovascular Outcomes after Acute Coronary Syndrome. N Engl J Med. 2018;379(22):2097–2107.
DOI: 10.1056/NEJMoa1801174
PMID: 30403574
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30403574/ - 医薬品医療機器総合機構(PMDA). レクビオ皮下注300mgシリンジ 電子添文.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/300242_2189403G1029_1_01 - 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ネクセトール錠180mg 電子添文. 2025年11月改訂.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/180078_2189022F1023_1_01 - 厚生労働省. e-ヘルスネット「脂質異常症の食事」.
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-012
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・処方を行うものではありません。治療目標や薬の適応は、年齢、持病、既往歴などによって異なります。薬の開始・変更・中止は、主治医と相談してください。薬剤情報は2026年10月6日時点で確認しています。