「栄養指導」と聞いて身構えてしまう方へ
糖尿病の治療で「一度、栄養指導を受けてみましょう」と声をかけられると、多くの方が少し身構えます。好きな食べ物を全部やめるように言われるのではないか、食事の記録を見せて叱られるのではないか、と心配される方は珍しくありません。
当院でも栄養相談を行っていますが、実際の中身は「あれもこれも禁止」という話ではありません。今の食べ方を一緒に見て、どこに手をつけると続けやすいかを探していく時間です。この記事では、糖尿病の栄養指導で具体的にどんな内容を話すのか、当日の流れ、持ち物、料金のしくみ、何回くらい通うことになるのかを順に整理していきます。
糖尿病の栄養指導で実際に話す内容

内容は人によって変わりますが、大きく分けると次のような項目を扱います。すべてを1回で詰め込むわけではなく、その方にとって優先度の高いところから進めます。
1. 今の食べ方を聞き取る
最初に時間を使うのは、指導ではなく聞き取りです。朝・昼・夕に何を食べているか、間食や飲み物はどうか、食事の時刻は毎日そろっているか、外食や中食(お弁当・惣菜)の頻度はどのくらいか。仕事の時間帯や家族構成、料理をする人が誰かによって、現実的にできることは大きく変わります。
ここで大事なのは、正直に話していただくことです。「昨日は夜中にアイスを食べてしまった」といった話こそ、改善の手がかりになります。
2. エネルギーと栄養素のバランスの考え方
日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』の食事療法の章では、総エネルギー摂取量を目標体重と身体活動量をもとに設定し、炭水化物・たんぱく質・脂質の割合については一律の比率を推奨するのではなく、個々の病態や嗜好に応じて柔軟に設定するという考え方が示されています。つまり「糖尿病だから全員この献立」という決まった正解があるわけではありません。
栄養指導では、ご本人の体格・活動量・腎機能などの状態をもとに、どのくらいの量を目安にするか、何を減らして何を保つかを話します。具体的な数値の目安は体の状態によって異なるため、当院では管理栄養士が医師と情報を共有したうえでお伝えしています。
3. 主食・主菜・副菜の組み立て方
実践面で最もよく扱うのが、1食の組み立てです。丼ものや麺類だけで済ませると、主食の比率が高くなり野菜やたんぱく質が不足しやすくなります。そこで、主食・主菜・副菜がそろう形にどう近づけるかを具体的に考えます。
たとえば、麺類にゆで卵や冷奴を足す、コンビニのお弁当にカット野菜やお浸しを1つ加える、といった現実的な足し算から入ることが多いです。引き算より足し算のほうが取りかかりやすい、という方が多いためです。
4. 食べる順番・速さ・時間帯
同じ内容でも、食べ方によって食後の血糖の上がり方は変わります。野菜やたんぱく質のおかずから食べ始める、よく噛んでゆっくり食べる、夕食が極端に遅くならないようにする、といった工夫を扱います。ただし、どのくらい変化するかには個人差があり、全員に同じ結果が出るわけではありません。
5. 飲み物・間食・お酒
意外と見落とされやすいのが、食事以外から入ってくるものです。甘いコーヒー飲料、スポーツドリンク、果汁飲料は液体のため量の実感がわきにくく、習慣化していると本人も気づきにくい部分です。
間食についても、やめるかどうかの二択ではなく、何を・いつ・どのくらいなら生活に組み込めるかを一緒に考えます。お酒は、飲む量だけでなく、お酒と一緒に食べるものや、薬の種類との関係も含めて相談します。
6. 外食・コンビニ・惣菜との付き合い方
自炊できない日をゼロにするのは現実的ではありません。そこで、外食や市販品を選ぶときの見方を扱います。栄養成分表示のどこを見るか、定食と単品のどちらが組み立てやすいか、惣菜を2品選ぶときの組み合わせ方といった内容です。
7. 低血糖への備え(薬を使っている方)
血糖を下げる薬やインスリンを使っている方では、食事を抜いたときや運動量が増えたときの備えも栄養指導の内容に入ります。低血糖が起きたときに何を口にするか、それをどこに常備しておくかを、生活の動線に合わせて決めておきます。
8. 合併症や他の持病に合わせた調整
腎臓の働きが落ちている方ではたんぱく質やカリウムの扱いが変わり、高血圧を合併していれば塩分の話が中心になります。同じ糖尿病でも、合併症の有無によって指導の内容は変わります。塩分については、減塩の塩は誰でも使える?糖尿病・高血圧の方が確認したいカリウムと腎機能でも当院のコラムとして取り上げています。
当日の流れ

一般的な外来での栄養指導は、おおむね次のような流れで進みます。
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 受付・診察 | 医師が検査結果や体調を確認し、何を重点にするかを栄養士に伝えます |
| 2 | 聞き取り | 直近の食事内容、生活リズム、仕事や家庭の事情を話します |
| 3 | 課題の共有 | 検査結果と食べ方を突き合わせ、どこが影響していそうかを一緒に確認します |
| 4 | 具体策を決める | すぐ試せることを、数を絞って決めます |
| 5 | 次回の確認事項 | 次に会うまでに見ておくことを決めて終わります |
「決めること」を欲張らないのがコツです。10個決めて全部できないより、1つか2つに絞って続いたほうが、次の相談が前に進みます。
持ち物と、事前に用意しておくと話が早いもの
手ぶらでも相談はできますが、次のものがあると具体的な話に入りやすくなります。
- 直近の血液検査の結果(他院で受けたものや健診結果も含む)
- お薬手帳
- 数日分の食事の記録(細かくなくて構いません。スマホで撮った食事の写真でも十分です)
- 血糖自己測定をしている方は、その記録
- 体重の記録
- よく買う食品のパッケージの写真(栄養成分表示が写っていると、見方をその場で説明できます)
食事の記録は「きれいに書けた日だけ」にしないほうが役立ちます。うまくいかなかった日ほど、何が起きているかが見えやすいためです。
当院を初めて受診される方は、マイナ保険証または資格確認書をお持ちください。紹介状、他の医療機関での検査結果、お薬手帳、各種医療証をお持ちの方は一緒にご提出いただくと、同じ検査を重ねずに済むことがあります。
時間・回数・費用のこと
1回で終わるのか、続くのか
1回で全部が解決することは、あまりありません。食べ方の変更は、やってみて初めて「ここが無理だった」「これなら続く」が分かるためです。実際に試した結果を持ち寄って微調整していくほうが、生活に合った形に近づきます。
通う間隔は、治療の段階や検査結果の動き方によって変わります。食事の内容を大きく変えた直後や、薬が変わったときは、間隔を詰めて確認することがあります。
費用のしくみ
糖尿病の栄養指導は、医師の指示に基づいて管理栄養士が行う場合、公的医療保険の診療報酬に「外来栄養食事指導料」という項目が定められており、保険診療の範囲で受けられます。自己負担額は加入している保険の負担割合や、その日に行った診察・検査の内容によって変わるため、一律の金額をここに書くことはできません。具体的な金額が気になる場合は、受付でお尋ねください。
当院での栄養相談について
当院には管理栄養士が在籍し、院内の栄養相談室で栄養相談を行っています。完全予約制ですので、ご希望の方は受付スタッフにお申し出ください。院長・管理栄養士・看護師が情報を共有しながら進めるため、診察で確認した検査結果をふまえた相談ができます。
また当院ではグリコヘモグロビン分析装置を備えており、血糖値・HbA1cの迅速検査を行っています。その日の結果を見ながら食事の話ができるため、前回からの変化を具体的に振り返りやすくなります。
よくあるつまずきと、その考え方
「言われたとおりにできなかった」と足が遠のく
これが最も多いつまずきかもしれません。ですが、できなかったことは失敗の報告ではなく、計画がその方の生活に合っていなかったという情報です。残業が続く時期なのに自炊前提の計画を立てていた、家族と同じ献立にできない方法を選んでいた、といった理由が見つかることがよくあります。合わない計画は作り直せばよいだけです。
家族と食事が別になってしまう
ご本人だけ別メニューにすると、作る側の負担が増えて長続きしません。味付けは共通にして、ご本人の分だけ主食の量を調整する、野菜の小鉢を家族全員分用意する、といった形にすると、家の中で無理が生じにくくなります。ご家族と一緒に相談に来ていただくこともできます。
「食べなければ下がる」と極端に減らす
極端な減らし方は、反動での食べ過ぎや、筋肉量の低下につながることがあります。薬を使っている方では低血糖のリスクも関わります。減らす方向だけでなく、何を保つかも同時に決めておくほうが安全です。
数字が動かないと感じる
食事を変えても検査値がすぐ動くとは限りません。HbA1cは過去1〜2か月の血糖の状態を反映する指標とされており、変化が結果に表れるまでには時間差があります。しばらく続けても変化がないとき、体調が悪化していくときは、食事だけの問題ではない可能性もあるため、早めに主治医に相談してください。
栄養指導と一緒に考えたいこと
食事だけを切り離して考えると、かえって難しくなることがあります。体を動かす量、眠り方、体重の管理は、食べ方と互いに影響し合います。当院のコラムでは、糖尿病の運動に1日1万歩は必要?歩数とHbA1cの研究から考える、続けられる歩き方や、睡眠時間を増やせばHbA1cは下がる?2026年の研究から考える、糖尿病と眠りの整え方でも、この点を取り上げています。体重が気になる方は、BMI25以上はみんな「肥満症」?まず3%の減量から考える、健康のための治療もあわせてご覧ください。
相談の前に、3つだけ決めておく
限られた時間を使い切るために、来院前に次の3つを考えておくと話が進みやすくなります。
- 一番困っていること:夕食が遅い、間食がやめられない、外食が多いなど、1つに絞る
- 絶対に手放したくないもの:毎晩のビール、週末のラーメンなど。先に伝えておくと、それを前提にした組み立てができます
- 生活上の制約:勤務時間、作る人が誰か、台所を使える時間帯
糖尿病は初期に自覚症状が乏しく、受診そのものが億劫になりやすい病気です。だからこそ、一度にすべてを変えようとせず、今の生活の中で動かせるところを一緒に探していくのが現実的だと考えています。当院は京王新線「初台駅」南口より徒歩1分で、月・木は18時15分まで、土曜も14時まで診療しています(火曜・日曜・祝日は休診、金曜は非常勤医師が対応します)。受付終了は診療終了と同じ時刻です。