血糖値の「正常値」は、測ったタイミングで変わります
健康診断の結果票を見ながら「この数字、正常なのかな」と気になって調べていらっしゃる方が多いと思います。まず知っておいていただきたいのは、血糖値の正常値は一つの数字ではなく、いつ測ったかによって見るべき基準が変わるということです。
血糖値は食事のたびに上がり、時間とともに下がります。健康な方でも食後は上がりますから、「食後に測ったら160だった」というだけで慌てる必要はありません。逆に、朝食前に測った空腹時の値が少し高めなら、それは体からの早めのサインかもしれません。同じ数字でも、意味がまったく違うのです。
ここでは、健診でよく測られる空腹時血糖・食後(随時)血糖・HbA1cの三つについて、どこまでが正常で、どこからが注意した方がよいのかを整理していきます。
場面別の基準値を一覧で確認する

日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2024-2025」で示されている判定区分をもとにまとめると、次のようになります。
| 測定の場面 | 正常型の範囲 | 境界型(正常型でも糖尿病型でもない) | 糖尿病型 |
|---|---|---|---|
| 空腹時血糖(10時間以上絶食後) | 110mg/dL未満 | 110〜125mg/dL | 126mg/dL以上 |
| 75gブドウ糖負荷試験2時間値 | 140mg/dL未満 | 140〜199mg/dL | 200mg/dL以上 |
| 随時血糖(食事時間に関係なく測定) | — | — | 200mg/dL以上 |
| HbA1c(NGSP値) | — | — | 6.5%以上 |
加えて、空腹時血糖が100〜109mg/dLの範囲は「正常高値」と呼ばれます。正常型のなかに含まれますが、将来的に糖尿病へ進みやすい層として区別されている値です。
また、健診の場では厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」の判定値も使われます。空腹時血糖は100mg/dL以上が保健指導判定値、126mg/dL以上が受診勧奨判定値、HbA1cは5.6%以上が保健指導判定値、6.5%以上が受診勧奨判定値とされています。健診結果に「要指導」「要医療」と印字される根拠は、多くの場合この基準です。
空腹時血糖:100を超えたら「様子見の入口」

空腹時血糖は、前夜の夕食から10時間以上あけて測った値です。健診で朝食を抜いて採血するのは、この条件をそろえるためです。
110mg/dL未満なら正常型ですが、100〜109mg/dLの正常高値に入っている場合は、食後の血糖がすでに大きく上がっている可能性があります。空腹時だけを見ていると見逃されやすいところで、この段階で生活を整えられると、その後の経過が変わってくることがあります。
110〜125mg/dLの境界型は、「糖尿病ではないけれど正常でもない」状態です。ここで大切なのは、放置せず一度きちんと調べておくこと。境界域の詳しい考え方と再検査については空腹時血糖の基準値と境界域で次にすべきこともあわせてご覧ください。
なお、採血前日の食事が遅かったり、甘い飲み物を飲んでしまったりすると、空腹時血糖は本来より高く出ます。健診前の過ごし方は健康診断の前日、食事は何時まで?血糖・中性脂肪の整え方が参考になります。
食後の血糖値:何時間後の値かで見方が変わります
「食後の正常値」を知りたい方は多いのですが、健診で食後血糖を厳密に測ることはあまりありません。基準としてはっきりしているのは、ブドウ糖75gを飲んで2時間後の値(75gブドウ糖負荷試験)で、140mg/dL未満が正常型、200mg/dL以上が糖尿病型です。
ふだんの食事の場合も、食後2時間ほどたっても血糖が高いままかどうかが一つの目安になります。食事内容や量で上がり方は変わりますので、一回の数字で判断するのではなく、繰り返し高めに出るかどうかを見ていきます。
食事の時間に関係なく測った随時血糖が200mg/dL以上あれば、その一点だけでも糖尿病型と判定されます。この場合は早めに医療機関で確認していただきたい数値です。
HbA1c:過去1〜2か月の平均を映す数値
HbA1cは、赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結びついた割合を示すもので、おおむね過去1〜2か月の血糖の平均的な状態を反映します。採血直前の食事に左右されにくいのが特徴です。
6.5%以上が糖尿病型の基準で、健診では5.6%以上が保健指導の対象になります(厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム 令和6年度版」)。5.6〜6.4%の範囲は、すぐに糖尿病というわけではありませんが、生活を見直す価値のあるゾーンです。
ただし、貧血がある方、腎臓や肝臓の状態によっては、HbA1cが実際の血糖状態とずれることがあります。数値だけで決めつけず、血糖値とあわせて読むことが大切です。
糖尿病と診断されるのはどんなときか
「糖尿病型」という判定と、「糖尿病」という診断は同じではありません。日本糖尿病学会の診断基準では、原則として次のような流れで判断されます。
- 別の日に行った検査で、2回続けて糖尿病型が確認された場合
- 同じ日の検査で、血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型だった場合
- 血糖値が糖尿病型で、口渇・多飲・多尿・体重減少といった特徴的な症状、あるいは糖尿病網膜症が確認された場合
つまり、健診で一度だけ高い値が出ても、その時点で確定するわけではありません。だからこそ、再検査の案内が来たら受けていただきたいのです。健康診断の再検査を放置するリスクと正しい受け方もご覧いただければと思います。
数値以外に気をつけたい体のサイン
血糖が高い状態が続くと、数字より先に体の変化として気づくことがあります。次のような症状が続いている場合は、数値が基準内でも一度ご相談ください。
- 水を飲んでも喉が渇く原因は?水を飲んでも治らない時の受診目安にあるような強い口渇が続く
- 特別なことをしていないのに体重が減る(体重減少の原因は?ダイエットなしで痩せる時の受診目安)
- 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿の原因|水分・血糖・睡眠から整理)
- 見え方がぼやける(目のかすみ 原因は疲れ目?血糖?眼科と内科の相談先)
- 足の小さな傷が治りにくい(小さな傷が治らない時に考えられる原因と受診のサイン)
正常高値・境界域だったときに、今日からできること

「まだ糖尿病ではない」と言われた段階が、実はいちばん取り組みがいのある時期です。難しいことをする必要はなく、食事の順番や主食の選び方を少し変えるだけでも、食後の血糖の上がり方は変わってきます。
- 野菜やたんぱく質のおかずから食べ、主食を後にする
- 主食を一度に大量にとらず、量を決めて盛る
- 甘い飲み物を水やお茶に置き換える
- 食後に10〜15分ほど歩く時間をつくる
- 朝食を抜かず、食事の間隔を極端にあけない
主食の工夫としてはオートミールと血糖値|効果と食べ方の基本、平日の食事を整える方法としては糖質オフ作り置きレシピ|平日ラクになる常備菜も参考にしてみてください。無理な糖質制限ではなく、続けられる形にすることが何より大切です。
検査を受けるタイミングと準備
空腹時血糖を正しく測るには、前夜から10時間以上あけた朝の採血が向いています。仕事の都合で午前中の受診が難しい場合は、食事時間に関係なく測れるHbA1cと随時血糖の組み合わせで、まず全体像をつかむという方法もあります。
渋谷区初台の当院では、水曜は8:20から、土曜も9:00〜14:00に診療していますので、朝いちばんや週末の空腹時採血を選んでいただくこともできます。糖尿病専門医の立場からお伝えしたいのは、数値が基準を超えていたとしても、そこからできることは必ずあるということです。合併症を正しく理解したうえで、「今できること」を一緒に考えていければと思います。