もち麦の「効果」は、何によるものなのか
「もち麦が体にいいと聞いたのですが、実際どうなんでしょう」。初台まちのクリニックの栄養相談でも、よくいただくご質問です。もち麦は流行の食材のように見えますが、注目されている理由はかなりはっきりしていて、そのほとんどは水溶性食物繊維の働きに関係しています。
もち麦は「麦」といっても小麦ではなく、大麦の一種です。大麦にはうるち性ともち性があり、そのうちもち性のものをもち麦と呼びます。もち麦にはβ-グルカンという水溶性食物繊維が含まれ、この成分が水を含むと粘りのある状態になることが、後でお話しする食後の血糖やコレステロールの話につながっていきます。
先にお伝えしておくと、もち麦は薬ではありません。食べたからといって血糖値やコレステロールが必ず下がるというものではなく、あくまで「主食の選び方を少し変える」という手段のひとつです。ただ、毎日食べる主食に手を入れられるという点は、続けやすさの面でとても大きな利点だと感じています。
食後の血糖ともち麦の関係
粘りが「ゆっくり」をつくる
ごはんやパンなどの炭水化物は、消化されてブドウ糖になり吸収されます。この吸収がいっせいに進むと、食後の血糖は急に上がりやすくなります。水溶性食物繊維は水を含むとゲル状になり、胃から腸へ食べ物が送られる速度や、糖が腸で吸収される速さに関わると考えられています。つまり、同じ量の糖でも「一気に」から「ゆっくり」に近づく方向に働くわけです。
ここで大切なのは、もち麦を足したから糖が消えるのではないということです。白米にもち麦を混ぜても、ごはん茶碗の中の炭水化物がゼロになるわけではありません。「盛る量はこれまで通りで、質を少し変える」というイメージで捉えていただくとちょうどよいと思います。
「セカンドミール効果」という考え方
食物繊維をとった食事は、その食事の後だけでなく、次の食事の後の血糖の動きにも関わる可能性がある、という考え方があります。これを「セカンドミール効果」と呼びます。たとえば朝食にもち麦入りのごはんやスープを食べておくと、昼食後の血糖の動きが穏やかになる方向に働くのではないか、という発想です。
まだ検証が続いている領域で、誰にでも同じように起こると言い切れるものではありません。ただ実践としては、「朝を抜いて昼にどっと食べる」よりも「朝に食物繊維を含む食事をとっておく」ほうが体にとって穏やかである、という点は覚えておいて損のない考え方です。朝食を抜きがちな方には、もち麦は取り入れやすい入口になります。
コレステロールとお通じへの働き
水溶性食物繊維は、腸の中で胆汁酸を吸着して排出を促すことなどを通じて、血中のコレステロールに関わると考えられています。大麦β-グルカンは、消費者庁の特定保健用食品制度において関与成分として扱われている成分のひとつでもあります。とはいえ、これは「もち麦を食べればコレステロールが下がる」という保証ではありません。脂質の数値は体重、飲酒、運動、遺伝的な体質、服薬の有無など多くの要素で動きますので、食材ひとつで判断はできません。
お通じの面では、もち麦は水溶性と不溶性の両方の食物繊維を含みます。水溶性は便をやわらかく保つ方向、不溶性はかさを増やす方向に働くとされ、どちらも腸にとって役割があります。また食物繊維は腸内細菌のはたらきにも関わるため、便通のリズムを整えたい方にとって、主食を変えるのは現実的な一手です。健診の脂質項目が気になっている方は、健康診断の結果の見方|血糖・脂質・肝機能を読み解くもあわせてご覧ください。
もち麦・押し麦・白米はどう違うのか

スーパーの棚に「もち麦」と「押し麦」が並んでいて迷う、という声もよく聞きます。どちらも大麦ですが、性質と食感が違います。
| 種類 | 正体 | 食感 | 水溶性食物繊維 |
|---|---|---|---|
| もち麦 | もち性の大麦 | もちもち、粒感が残る | 多く含まれるのが特徴 |
| 押し麦 | うるち性の大麦を蒸して押したもの | やわらかく、なじみやすい | 含まれるが、もち麦より少ない傾向 |
| 白米 | 精米した米 | ふつうのごはん | ほとんど期待できない |
水溶性食物繊維をねらって選ぶならもち麦、食感の変化が苦手な方には押し麦、という選び分けでよいと思います。なお「雑穀ミックス」と書かれた商品は配合が製品ごとに大きく違います。もち麦の働きを期待して選ぶ場合は、原材料名の最初のほうにもち麦(大麦)が書かれているかを見てみてください。
買うときに見る表示のポイント
- 原材料名:大麦・もち麦の表記があるか。味付けや調味の入った商品は主食用と用途が違います
- 調理方法:白米と一緒に炊けるタイプか、別ゆでが必要なタイプか。続けやすさに直結します
- 粒の形:丸のままか、押してあるか。押してあるほうが食感の違いが穏やかです
- 包装の大きさ:最初は小さめの袋で試すほうが、口に合わなかったときに無駄になりません
白米への混ぜ方と、続けるための工夫

いきなり全部を置き換えない
もち麦をやめてしまう方の理由で最も多いのは「食感が苦手だった」「家族が食べてくれなかった」というものです。ですから最初は、白米の一部をもち麦に置き換える程度から始めるのがおすすめです。慣れてきたら少しずつ比率を上げていけばよく、はじめから多くする必要はありません。水加減は商品の表示に従うと失敗が少なくなります。
ごはん以外の使い道も持っておく
毎食のごはんを炊く生活でない方は、ごはん以外の入口を持っておくと続きます。
- ゆでたもち麦を作っておき、スープや味噌汁に加える
- サラダに混ぜて食感を出す(ドレッシングは油と塩の使い方に注意)
- 炊いて小分けにして冷凍し、必要なときに使う
作りおきしておけるのがもち麦の強みです。忙しい平日の主食を整える発想は、冷凍野菜って栄養はあるの?おいしく上手に活用するコツと同じ考え方です。
「足す」より「置き換える」
もち麦を取り入れるときに気をつけたいのが、今までのごはんに加えて食べてしまうパターンです。体にいいと聞くと量が増えがちですが、それでは食事全体の炭水化物が増えてしまいます。もち麦は「増やす食材」ではなく「置き換える食材」と考えてください。同じく発酵食品を取り入れたい方は、ヨーグルトの効果|量・タイミング・選び方がわかるや甘酒の効果と飲み方|血糖値が気になる人へも、同じ「置き換えて考える」視点で書いています。
どのくらいで変化が見えるのか
「いつから効きますか」というご質問もよくいただきます。食後の血糖の動きは、その食事のたびに影響を受けます。一方で、健診でおなじみのHbA1cは過去一定期間の血糖の平均的な状態を反映する指標ですので、食事を変えてすぐに数字が動くものではありません。数か月単位で見ていくのが現実的です。
ですから、もち麦を始めて1週間で体重計や数値が変わらなくても、それは失敗ではありません。続けられているかどうかを最初の評価軸にしてください。指標の読み方についてはHbA1cの基準値の読み方|数値ごとの受診目安がわかる、血糖値の正常値|空腹時・食後・HbA1cで見分けるで詳しくお話ししています。
もち麦を食べるときに注意したい方
食物繊維は体に良い面が多い一方で、増やし方によっては困った症状が出ることもあります。次のような場合は、無理をせずご相談ください。
- お腹が張る・ガスが増える:食物繊維を急に増やすと起こりやすい変化です。量を戻し、水分をとりながらゆっくり増やしてください
- 消化器の病気で治療中・手術後の方:食物繊維の量について主治医の指示がある場合があります。自己判断で増やさないでください
- 糖尿病の薬やインスリンを使っている方:食事内容が変わると血糖の動きも変わります。低血糖を避けるため、主食の変更は主治医に伝えてください
- 腎臓の状態でカリウム制限がある方:主食や副菜の選び方に配慮が必要です。カリウムが多い食べ物|増やす人と控える人の違いもご覧ください
また、もち麦は大麦です。麦類にアレルギーのある方、グルテンを避けている方は原材料表示を必ず確認してください。
自分の食べ方が合っているか確かめたいとき
もち麦を含む食事の工夫は、その方の血糖の状態、腎機能、服薬、生活リズムによって最適な形が変わります。当院(初台まちのクリニック)では院内にグリコヘモグロビン分析装置があり、血糖値・HbA1cの迅速検査を行っています。その日の結果を見ながら、食事の話をその場で進められるのが利点です。
また当院には管理栄養士が在籍し、栄養相談室で栄養相談を行っています。完全予約制ですので、ご希望の方は受付スタッフにお申し出ください。「もち麦を始めたけれど量が分からない」「家族の食事と両立させたい」といった具体的なご相談こそ、栄養相談が力を発揮する場面です。診療は月・木が午後18時15分まで、水曜は朝8時20分から、土曜は午後2時まで行っておりますので、お仕事の合間にも組み込みやすいと思います(火曜・日曜・祝日は休診、金曜は非常勤医師が対応します。診療対象は15歳以上です)。
もち麦は、魔法の食材ではありません。けれども毎日の主食に手を入れられる、数少ない現実的な選択肢です。「今日から変えられるものを、一つだけ変えてみる」。その一つとしてもち麦を選ぶなら、十分に意味のある一歩だと思います。