健康診断の結果表で「HbA1c」を見つけたあなたへ
健康診断の結果が届いて、血糖値の欄に見慣れない「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」という項目が並んでいる。数字の横に小さく基準値が書いてあるけれど、自分の数値がそこから少し外れていて、どう受け止めたらいいのか分からない——そんなときにお読みいただきたい内容です。
初台まちのクリニックの診察室でも、「血糖値は正常なのにHbA1cだけ引っかかりました」「去年より0.2上がったのですが大丈夫でしょうか」といったご相談をよくいただきます。HbA1cは、その日の食事や体調で大きく動かない、いわば「まとめの数値」です。意味が分かると、結果表の見え方がずいぶん変わってきます。焦らずに、一つずつ整理していきましょう。
HbA1cは「過去1〜2か月の血糖の平均」を映す数値

血液の中の赤血球には、酸素を運ぶヘモグロビンというたんぱく質があります。血液中にブドウ糖が多い状態が続くと、そのブドウ糖がヘモグロビンにくっつきます。この「糖がくっついたヘモグロビン」の割合をパーセントで表したものがHbA1cです。
赤血球の寿命はおよそ120日とされ、HbA1cはおおむね過去1〜2か月の血糖の平均的な状態を反映します(日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』)。つまり、検査の前日だけ甘い物を控えても、HbA1cはほとんど変わりません。逆にいえば、「たまたま調子が悪かった日」の影響も受けにくく、ふだんの暮らしぶりが素直に出る数値ということです。
日本で使われているHbA1cの値は、国際標準であるNGSP値です。以前使われていたJDS値とは表記が異なりますので、10年以上前の古い結果表と比べるときは注意してください。
「その日の血糖値」とは役割が違います
血糖値は、採血したその瞬間の血液中のブドウ糖の濃度です。食事の直後は上がり、時間が経てば下がります。だからこそ健診では「空腹時」に測るという条件をそろえます。
一方でHbA1cは、食事の直前でも直後でも大きくは変わりません。両方を並べて見ると、「今この瞬間」と「ここ数か月」の二つの角度から血糖の状態が見えてきます。空腹時血糖のほうを詳しく知りたい方は、空腹時血糖の基準値と境界域で次にすべきこともあわせてご覧ください。
| 空腹時血糖値 | HbA1c | |
|---|---|---|
| 見ているもの | 採血した瞬間の血糖 | 過去1〜2か月の平均的な血糖 |
| 食事の影響 | 大きく受ける | ほとんど受けない |
| 測る条件 | 10時間以上の絶食が必要 | いつでも測れる |
| 単位 | mg/dL | % |
| 得意なこと | 今の状態を見る | 経過をならして見る |
HbA1cの基準値と、数値ごとの意味

特定健診・特定保健指導の基準や日本糖尿病学会の診断基準を踏まえると、HbA1cはおおよそ次のように区切って考えられています。
| HbA1c(NGSP値) | 一般的な位置づけ |
|---|---|
| 5.5%以下 | 基準の範囲内 |
| 5.6〜5.9% | 正常高値。将来の糖尿病リスクを意識したい範囲 |
| 6.0〜6.4% | 糖尿病が否定できない範囲(いわゆる境界域) |
| 6.5%以上 | 糖尿病型。医療機関での確認が必要 |
出典:日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド2024-2025』、厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」。健診機関によって表記の区切りが少し異なることがありますので、お手元の結果表の基準値欄もあわせてご確認ください。
5.6〜5.9%——「まだ大丈夫」ではなく「今が動きどき」
この範囲は、多くの結果表で「要注意」や「保健指導」の印がつきます。すぐに治療が必要という数値ではありませんが、正常の中では高めの位置にあります。
この段階で嬉しいのは、食事や体の動かし方の見直しが数値に反映されやすいことです。診察室でも、この時期に生活を整えた方は、翌年の健診で落ち着いた数値に戻られることが少なくありません。ただし、どなたでも必ず下がるとお約束できるものではなく、体質や年齢、他の病気の有無によって経過は異なります。
6.0〜6.4%——一度、内科で相談していただきたい範囲
この範囲は「糖尿病が否定できない」段階です。HbA1cだけでは診断が確定しないため、空腹時血糖値や、ブドウ糖を飲んで血糖の動きを見る検査(75gOGTT)を組み合わせて判断します。
健診で「要再検査」と書かれていても、自覚症状がないと後回しになりがちです。けれど血糖の異常は、症状が出るころにはかなり進んでいることがあります。健康診断の再検査を放置するリスクと正しい受け方もご参考になさってください。
6.5%以上——糖尿病型。早めに受診を
HbA1c 6.5%以上は「糖尿病型」と判定されます。ただし、この一回の数値だけで糖尿病と確定するわけではありません。日本糖尿病学会の診断基準では、血糖値の検査で糖尿病型が確認されるか、別の日の再検査で同じ結果が出るか、あるいは典型的な症状(口渇・多飲・多尿・体重減少)や糖尿病網膜症があるかを組み合わせて診断します。
この数値が出た方は、驚かれるより先に「今の状態が分かってよかった」と考えていただきたいと思います。分かった時点から手を打てるのが、この病気の特徴だからです。
数値が高いとき、体からのサインが出ていることもあります
血糖が高い状態が続くと、体はいくつかの形で知らせてくれることがあります。もしHbA1cが高めで、次のような変化に心当たりがあれば、受診の優先度は上がります。
- 水を飲んでも喉が渇く状態が続く
- 夜中に何度もトイレで目が覚める(夜間頻尿)
- とくにダイエットをしていないのに体重が減っていく
- 足の小さな傷や靴ずれがなかなか治らない
- 目がかすむ、見えにくさが気になる
- 疲れやすさ・だるさが続く
いずれも血糖以外の原因でも起こりますので、これだけで判断はできません。ただ、HbA1cの数値と重ねて見ると、体の状態を考えるヒントになります。
HbA1cが実際より高く・低く出ることもあります
HbA1cは安定した指標ですが、赤血球の状態に左右されるという弱点があります。次のような場合は、血糖の実態とずれることが知られています(日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』)。
- 鉄欠乏性貧血、溶血性貧血、大量の出血があったとき
- 輸血を受けたあと
- 腎不全、肝硬変があるとき
- 異常ヘモグロビン症(体質的なもの)
- 妊娠中(血糖の変化にHbA1cの反応が追いつきにくい)
「食生活には気をつけているのにHbA1cだけ高い」「症状はあるのに数値が正常」というときは、こうした背景が隠れていることがあります。診察では貧血の有無なども含めて確認しますので、健診結果は血糖以外の項目も一緒にお持ちください。
数値を動かすために、今日から始められること
HbA1cは1〜2か月の平均ですから、変化が見えるまでには少し時間がかかります。裏を返せば、一日だけ頑張るより、続けやすいことを選ぶほうが結果につながりやすいということです。当院のコラムでも食材やレシピを取り上げてきましたが、根っこにあるのは次のような考え方です。
食べる順番と、主食の質を変える
野菜やきのこ、海藻などの食物繊維を含むものから食べ始め、たんぱく質、最後に主食という順番にすると、食後の血糖の上がり方がゆるやかになりやすいことが報告されています。白米に押し麦を混ぜる、朝食をオートミールに置き換えてみるなど、主食の一部を食物繊維の多いものに替えるのも取り組みやすい方法です。
食後に少し体を動かす
食事のあと30分から1時間ほどの間に体を動かすと、糖が筋肉で使われやすくなります。運動のための時間を確保しなくても、食後の片づけを立って行う、一駅分歩く、といった程度から始めて構いません。厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、座り続ける時間を短くすること自体に意義があるとされています。
間食と飲み物を見直す
甘い飲み物は液体のぶん吸収が速く、血糖を上げやすい傾向があります。毎日の習慣になっているものが一つでもあれば、そこを変えるのが効率的です。
次の健診の準備も整えておく
HbA1cは前日の食事に左右されませんが、同時に測る空腹時血糖や中性脂肪は影響を受けます。正しく評価するために、健康診断の前日、食事は何時まで?血糖・中性脂肪の整え方も確認しておくと安心です。血糖の指標全体を見渡したい方は、血糖値の正常値|空腹時・食後・HbA1cで見分けるもどうぞ。
受診するとき、何を持って行けばよいか
内科を受診する際は、今回の健診結果に加えて、可能であれば過去2〜3年分の結果もお持ちください。HbA1cは「今の数値」より「どう動いてきたか」に多くの情報があります。5.7%で横ばいの方と、5.3%から5.7%へ上がってきた方とでは、お伝えする内容が変わります。
また、服用中のお薬やサプリメント、健診後に変えた生活習慣があれば、それも教えてください。初台まちのクリニックでは、糖尿病専門医が数値の背景を一緒に確認し、合併症の心配がある部分は必要に応じて検査や他科との連携を考えていきます。数値を責めるための場ではありませんので、「久しぶりの健診で急に上がっていた」という方も、そのままの結果をお持ちいただければ大丈夫です。
京王新線・初台駅南口から徒歩1分の場所にあります。診療は月・木が9:00〜12:30と14:15〜18:15、水が8:20〜12:30と13:15〜15:00、金が9:00〜12:30と13:15〜17:30、土は9:00〜14:00(午後なし)です。火曜・日曜・祝日は休診です。会社帰りやお買い物のついでにも立ち寄っていただけます。
数値は、責めるためではなく次の一歩を決めるためのもの
HbA1cは、この数か月の暮らしがそのまま形になった数字です。高かったとしても、それは「これまでが悪かった」という評価ではなく、「ここから何を変えられるか」の出発点にすぎません。院長として日々の診療で大切にしているのは、薬の力だけでなく、気持ちも少し上向きになって帰っていただくことです。結果表を見て不安になったときこそ、一人で抱えずに相談していただければと思います。